過去から現在に向けた手紙のような大河ドラマだった、『いだてん』。
公共放送が発したあらゆる方向に向けての最大限のメッセージのような気がする。
「こんなときだからこそオリンピック」と鼓舞する一方で、
「いまの日本は世界に見せたい日本ですか?」と疑問を投げかけてくる。
それを宮藤官九郎という現代のひとがつくったというのが本当にすごい。
とても美しいクロスワードパズルのようなドラマだった。
クロスワードパズルは、「カギ」と呼ばれる文章によるヒントを元に、タテヨコに交差したマスに言葉を当てはめてすべての白マスを埋めるパズル。通常、四角形であり、文字の入る白マスと入らない黒マスから成り、白マスにはカギを配置するための数字が振られている。
最終回でマスは完璧に埋まった。
そのパズルは宮藤官九郎のとんでもない視野の広さによってつくられていた。
基本的にはハッピーがちりばめられていたけれど、
つらくて悲しいこと、日本人が目を背けたいこともすべて描いていた。
平和の祭典と言われるオリンピックの敵は、ときに政治だった。
そのすぐ横には戦争があった。災害があった。
群像劇であったこの大河ドラマは、私という人間にとっても無関係な話ではなかった。
誰もがこのドラマの登場人物になり得た。それらはぜんぶ他人事じゃなかった。
あと、毎回必ず"人間の優しさ"で泣かされる。
終盤に、四三さん、志ん生や津島さんらの、
長くある世界で生きてきたひとたちの「老い」というものまで描いたのにはさすがにびっくりした。
本当に底が知れない…
最後の最後、東京オリンピックの最後の聖火ランナーの少年に平和の象徴を背負わせてしまったことについては、
テレビでただそれを見ている私ですら考えさせられるものだった。
最後まで、本当にすごかった。
第1部から第2部への転換もすさまじかった。
第2部になってまだ第1部のメインキャストもしっかりと登場しているのに、
田畑政治=まーちゃんがかき回してあっという間に時代を新しくしてしまったのはお見事だった。
しかもまーちゃんは実は第1部にもしっかりと登場していた。
恐ろしいことに『いだてん』は劇中の出来事はぜんぶどこかに繋がる仕組みになっていた。
本当に我々はずっとクドカンの掌の上だった。
つねにフルスロットルのまーちゃんだけれども、演じた阿部サダヲの突き抜けたような演技に圧倒されることも多かった。
そしてラストに、第1部の主人公であった金栗四三(中村勘九郎)の物語がようやく完結した。
このドラマ、創作なのでは?、という部分が、
まごうことなき史実であったりするのもすごかった。
なんだか「すごい」ばかり言ってるけれど本当にすごいドラマだったので…
実在の岩ちん、まさかの演じた松坂桃李よりイケメンだった…すごい…
初回、あまりにも楽しく美しいオープニングから心躍った。
オープニングに現れる東京の街並みを描いたのはなんと山口晃。
そしてロゴデザインとポスタービジュアルを手掛けたのはかの横尾忠則。
まさか2019年に横尾忠則が大河ドラマのデザイン制作をするだなんて誰が想像できたか!
攻め攻めの姿勢がソークールすぎる。
この情報を知った時点で、私の期待は最高潮だった。
なんてったって"1964年の東京オリンピック"といえば、
泣く子も黙る天下の亀倉雄策大先生様が数々の傑作デザインを産み出しているからである。
#いだてん
— 前野健太インフォ (@maenokenta_info) November 16, 2019
本日16日13:00から42話再放送
明日17日20:00から43話放送
ぜひご覧ください#亀倉雄策 #グラフィックデザイナー#前野健太 #マエケン pic.twitter.com/wR3ySMfZ8T
亀倉雄策を演じたのは前野健太さんというシンガーソングライターの方でした。
大変申し訳ないのですが、わたくしこの方を存じ上げなくてですね…
いやお名前だけなら、どこかで聞いたことがありますね…うん、すみません…
「丹下健三は松田龍平なのに!ずるい!」と建築畑の友達にぶつぶつ言っていました…だってずるい!
ビジュアルだけでなく、これまでの大河ドラマとは違い、
「派手さ」に欠けるであろう近代の群像劇は、とてもポップな演出で彩られた。
全編が映像作品としてもとても見ごたえがあり、贅沢な時間だった。
私は、それをとても楽しく視聴していたけれど、
残念ながらその「大河ドラマ」にあるまじきあまりのポップさに戸惑った層が多かったのも事実である。
SNSでの盛り上がりようと視聴率という数値がこんなにかけ離れることがあるのだろうか。
そのポップさは諸刃の剣だったように思うけれど、
NHKが最後までお茶の間の顔色を窺ったりせず、貫いてくれたことに感謝します。
とはいえ、こんなに凄いドラマなのに視聴率が悪い、っていうか、
序盤からすでに既存の大河ドラマファンが続々と離脱してたのはくやしすぎました。
長年大河ドラマに親しんできたひとたちが、口々に「つまらないんだもん」「わからないんだもん」って言うのを直接聞いたりもしたけれど、
それが理解できないわけじゃないから余計にくやしい。
単純にもっとたくさんの人に見てもらいたいし、評価されるべきだけれど、
絶対に相容れない人がたくさんいることもわかってしまうのが本当にくやしい。
だって「大河ドラマ」なんだもん…
個人的には「大河ドラマ」であることにはこだわりたい(?)ので、
よく見かけた「わかるひとだけわかればいい」みたいな主張も悲しいというか。
そこを切り捨てたくない…いやだって大河ドラマだからね!?、と思う。
自分の好きなものはみんなにも好きになってほしいんだよ…
というか、本当に素晴らしいドラマだったので、それがより多くのひとに届いて欲しいなという。
「俺のオリンピック」。
今度の東京オリンピック、まだぜんぜん俺のオリンピックじゃない。
まーちゃんが政治家に放っていたことばをそのままいまの政治家に聞かせてやりたい。
はたして来年の東京オリンピックは「みんなのオリンピック」になるのだろうか。
『いだてん』、本当にありがとうございました!
最高の大河ドラマでした!