この映画館で映画を観るのは最後だった。
閉館を知ったときはすごく驚いたしショックだったけれど、
お知らせのはがきに次に別の映画館が入るとの明記があり、ほっとしたのも事実だ。
最後に映画館の代表の方とお話しをすることができた。
以前にも何回かお話をしたことがあり、あちらも私のことを覚えていてくれた。
どうしても関係上、一方的に「客」である私が感謝を伝えるかたちにはなったけれど。
その方を私はとてもカッコいいと思っているし、
なんなら同志のように勝手に思っていた部分があった。だからこそ、憧れていた。
その方は最後に「悔いが残る」と胸の内を教えてくださり、
失礼極まりないのだけれど、なんだかよりその方と距離が近づいたような気がした。
映画はいろいろな場所で観られるかもしれないけれど、
この方がつくったこの映画館との別れは、心底さみしい。
そんな映画館で観た最後の作品は『モリのいる場所』だった。
映画についてどうこう言うことなどできないような映画だった。
それくらいなにからなにまで隙がなかった。
老いて弱っていっているように見えていた祖父や祖母のことを想った。
きっと、私は彼や彼女のことが見えているようでぜんぜん見えていないんだろうな。猛省。
ひとの数だけ、「人生」というものがあるというのを痛感させられた映画だった。
"熊谷守一夫妻の人生の一端"という実在したモチーフがあったものの、
それはドキュメンタリーではなく、つくり手の手が入った創作作品だからこそ、
いっそう強く伝わったものがある気がする。
まるで劇中の庭みたいだ。
沖田修一監督のことは映画『南極料理人』を観たときに初めて知った。大好きな作品。
高良健吾くんもこの作品で知ったので、私は"南極料理人新規の高良健吾ペン"である。
しかし、そのあとに観た作品が、あまりにも私のなかでスベり倒してしまい、
なんだか残念なイメージがついてしまっていた沖田監督なのだけれど、
いやいやここまで強い作品をつくる方だとは。びっくりした。
当然のごとくキャストにも隙がないのだけれど、
そのなかに吉村界人をキャスティングしてくれたことは本当に感謝しかない。
吉村界人、すごくよかった。
というか、この作品てイイ意味で本当に良い悪いということすらも語らせてくれないので、
「よかった」と言うのもなんか違和感があるのだけれど、
強いて言うならほかのキャストの方々と同様に作品の一部になっていたという感じ。
てゆーか吉村界人、大抜擢すぎじゃない?このポジション射止めたの凄すぎない?
名前が上から4番目とかやばくない?
先日視聴した樹木希林さんのドキュメンタリー番組でこの作品のことは知っていたけれど、
あれはあくまで希林さんのドキュメンタリーだったわけで、
そこで見たものと同じなのにまったく違うものを映画で観たという不思議な感覚がある。
劇中でモリさん(山崎努)の奥さま・秀子さん(希林さん)が加瀬亮演じる写真家に、
「あなたは夫婦が仲の良さそうな写真を撮る」というようなダメ出しをしていたのだけれど、
確かにメインビジュアルにも使用されていた夫婦の写真と映画のなかの夫婦は別物に見える。
けれど、その写真からは"映画のなかの夫婦の「空気」"はとてもよく表現されており、
なんだか一本も二本も取られているような気分なのだ。
この映画館で最後に私が出会った作品がこれで、私は本当に恵まれているなと思った。
でも「会員料金」で上質な作品らをかなり手頃に鑑賞させていただいていたということに、
いまとなっては申し訳なさがないといったらそりゃあるにきまってるんですよ。
まだ出会って約1年しか経っていない地元のミニシアターだけれど、
ひょんなことから出会うことができて本当によかった。
またこの映画館があったからこそ出会えた作品はとってもとっても多く、
作品にも映画館にも代表の方にもスタッフの方々にも感謝しかない。
みんなみんな、出会ってくれてありがとうございました。幸せになりましょう。