不思議な映画体験だった。
私はクエンティン・タランティーノ監督のファンであることを前置きしておくけれど、
"タランティーノがつくった"ことがこんなにも響く映画だとは思わなかった。
それは一見すると"タランティーノっぽくない"からだ。
けれど観たものを反芻するとき、"タランティーノの映画だなぁ"と思わざるを得ない。
最初から「タバコ休憩してええよ」と謳っている(?)との情報を得ていたので、
約3時間と長尺だったけれど、妙にリラックスして鑑賞することができました。
大事なところを見逃したらどうしよう、みたいなプレッシャーは皆無。
あれはラクだし楽しいし、新しい。
だからとくに長尺も気にならなかったですね。不思議。
いつもの(といっても2作しか観ていないけれど)作風だと、
あっという間の3時間!、という感じだけれど、本作はそういう感じはまったくなく…
なんとなく観ていたら3時間経ったの!?まじで!?みたいな。
けれどラスト数分の超ど展開は、
ヨッ!さすがタランティーノだわぁってすっごいテンション上がりましたね!
あの3時間のなかのたった数分で、それまで流れていた穏やかでゆったりとした空気が一気に傾きます。
でもこれがまた不思議なんですけど、「事件」の直後は、
すでにもう穏やかでゆったりとした空気に戻ってるのなんなん。すごい。
登場人物の人間関係をあまり描いていないのが、逆にとてもいいと思いました。
ストーリーとかあるんだかないんだかという感じだし、
リックと(レオナルド・ディカプリオ)とクリフ(ブラッド・ピット)の、
バディ?ブロマンス?みたいなアプローチもあんまりないし、
キーパーソンであるシャロン・テート(マーゴット・ロビー)に至っては、
"リックとクリフの物語"には驚くほど絡んできません。
でもそれがよかった。
それだからこそ全体的にオールドスタイルで穏やかでゆったりとした空気でありながら、
「個人」が際立って、ソリッドでクールな印象になっていたように思います。
本作は実際に起こった『シャロン・テート事件』を履修しておいた方が何倍も楽しめます。
と、いうかこの事件のことをまったく知らなかったら、私はそんなに…だったと思う。
映画は『シャロン・テート事件』をベースにした、「たられば」の話なんですよね。
この「たられば」にタランティーノのいろんなものが詰まっているんじゃないかな。
劇中の「事件」は笑っちゃうくらいのひどい描写なので、
そこはタランティーノの趣味でしょうが(笑)、
全体的に描かれている「たられば」からは、タランティーノが愛した映画への「愛」みたいなものが、伝わってくる。
それは彼が憧れたかつての映画の現場なのだろうか。
それはその現場がつくりだした映画そのものなのだろうか。
それはそこにいた映画スターたちの姿なのだろうか。
ブラット・ピッドがめちゃくちゃカッコよかったですね~!
レオ様も三枚目ながらすごくカッコよく感じたのだけれど、あれはレオ様だから?
ふたりともよく受けたな~とも思う(笑)
でもレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットをこの映画の主役に据えたことがこの映画の核だろうし、
ここにふたりを揃えられるというのがタランティーノのすごさといいますか。
これから本作におけるふたりのインタビューを読んだりするのがとても楽しみです!
相変わらず、カットと音楽のカッコよさもずば抜けていて最高です。
あと、ちゃんと笑えるんですよね~。
なんか最近の映画(とくに洋画)って笑うところなのか笑っちゃいけないところなのかよくわからないものが多いと感じられるんだけれど、
本作は、ただでさえ公式が「タバコ休憩してええよ」のノリなので、
素直に笑えたのがとてもよかった。
そんなところからもタランティーノの映画への「愛」を感じます。
そして、それでもなお、自身の「愛」より"届けるエンターテイメント"が勝つのがソーソークールです。