私は韓国のクリエイティブについては「アイドル」を通してでしか、知らない。
でも、それだけでも、じゅうぶんすぎるくらい楽しませてもらっています。
以前から「やりすぎ気質」と口うるさく言ってきたK-POPアイドルにまつわるクリエイティブのクオリティは、
しっかりとそれなりに世界中に熱烈なファンを産んでいる。
ハイファッション誌のグラビアのモデルにアイドルが器用されることも珍しくなく、
アイドルというコンテンツとクリエイティブ面がしっかりと繋がりを持っている点は、
アイドルを追いかけている多感なティーンにそれなりに影響を与えているのかなと思うと、そういう状況は羨ましくもある。
ところが、数年見渡すと、"アイドルにまつわるK-クリエイティブ"のシステムもなんとなくわかってくる。
あくまで私が眺めているのは"アイドルにまつわるK-クリエイティブ"という狭い世界ではあるけれど、
限られた少数のクリエイターがあれもこれもと手がけている様子はちょっとさすがに既視感に次ぐ既視感で辟易してくるのも事実。
そこで、手腕を発揮するのはクリエイターにオーダーする側の采配。
当ブログではさんざん悪口言われているSMエンターテイメントのミン・ヒジンさんは、
最近はアートディレクターだけでなくクリエイティブディレクターをも務めるようになったらしい。
なるほど。
クイエイティブディレクター・ミン・ヒジンは従来のSMエンタ作品のイメージを覆すべく、
いろいろなクリエイターの才能を取り入れ、チャレンジしている様子がうかがえる。
なんだかんだ、こうしてアイドルを所属事務所側がしっかりとディレクションすることで、
外部のクリエイターのローテーションとも思えるようなキャスティングにそれなりにメリハリがついているように思う。
(まぁそれでもひとりのディレクターの指揮による限界=ディレクターの力量不足もあり、
"似たようなもの"が増殖していってる感は否めないのだけれども)
そんな、"アイドルにまつわるK-クリエイティブ"に、求心力を発揮する女性がヒジンさんの他にもいた。
しかもSMエンターテイメントのライバル会社・YGエンターテイメントに。
彼女の名は、ジウン。
苗字はたぶん明かされていない。
YGエンターテイメントのスタイリストチーム室長であり、取締役でもあるという。
YGエンタ所属タレントのSNSなどにも登場するなどしているのでファンにはお馴染みのひとなんだと思う。
今年行われた『第5回GAONチャートK-POPアワード』で今年のスタイル賞を受賞した人物。
こちらのインタビュー記事がとても読みごたえがある。
そして、この貴重なインタビュー、ものすごく興味深いのです。
YGエンターテイメントといえば、ザ・K-POPな奇抜なファッションのイメージを所属タレントを通して常に発信している印象がある。
そのスタイルは、K-POPシーン全体の印象にもなりうるくらい牽引力のあるもの。
そして、ファッションがあってはじめて他のアートワークの全体像が見えてくるといっていいくらい、
私の中ではYGタレントは「ファッション」のイメージがある。
YGエンタの顔でもある『BIGBANG』は、いまやワールドクラスのファッションアイコン。
それをイチからつくりあげたひととは、いやいやすごい。
インタビュー中に語られるこの一節。
私が一番ダメだと思うのは、スタイリストが着せたようなスタイルです。私が着せた服だとしても、大衆が見てアーティストが選んだと思う必要があるということです。
私が見てきたYGタレントにおけるそれらは、"アーティストが選んだ"となんとなーくイメージしていた。
例えそうでなくても、そう思わせるような着こなしを彼らはしているのだ。
そう思わせた時点で、ジウンさんが育ててきたものがいかに力を持っているのかがわかる。
「ファッション」。
とてもじゃないけれど、私は知識も情報もまったく持ちあわせていない。
歴史とトレンドがつきまとうファッションという文化に対してはことばにするのも難しい。
「ファッション」つーのは、「衣食住」という"「生活」の一部"であると思う。
そういったものをタレントひとりひとりにしっかりとイメージとしてを植え付ける作業は決して容易ではないはず。
そんな作業がひとりの女性のディレクションのもと、行われていたとは。
YGエンタは、積極的に多様なジャンルのクリエイターとコラボレーションをしている。
それでも"「YG色」が薄れない"のは、ジウンさんが組み立てているファッションに関する設計が行き届いているからなのでは。
2014年3月の時点で、「全部でいくつのグループを手がけているのか?」という問いに、
ヘアメイクを除いて6グループです。BIGBANG、WINNER、イ・ハイ、楽童ミュージシャン、EPIK HIGH、そして社長まで担当しています(笑)
と、答えている。
こういった同じ事務所で複数のタレントを扱う場合には、
例えば、WINNERはBIGBANGと同じ服を着せても、まだ雰囲気が出ません(笑) アーティストのオーラが必要です。
と、直属のディレクターのさじ加減で差別化がはかられている様子を垣間見ることができる。
これはヒジンさんの仕事も同じなのでは。
ヒジンさんもジウンさんも共通して「室長」という肩書がつく。
けれどこのふたり、仕事に対するスタンスがぜんぜん違うのです。
自分の色をタレントに施すヒジンさん。
タレントの色を引き立たせるジウンさん。
まったく違った取り組み方をするふたりの女性ディレクターが、巨大芸能事務所を背負って、
タレントと芸能事務所のビジュアルディレクションに対する舵を切っているのかと思うと、
それは素直におもしろいことだし、わくわくする。
また、YGエンターテイメントにはかつてチャン・ソンウンさんという女性の"デザイン「室長」"がいた。*1
同じ会社の女性「室長」同士、ジウンさんとバトったりしたのかなぁ。(わくわく)
ソンウンさんのインタビューを読むと、ジウンさんとは全然違うプロセスで作業しているのが興味深い。
もちろん、ヒジンさんもジウンさんも優秀なクリエイターのうちの一端であり、
ほかにもたくさんのクリエイターが活躍しています。
アンダーグラウンドからメジャーシーンへ躍り出てきた例もたくさん見かけました。
個人的には徹底した"K-カワイイ"で猛攻をしかける『OH MY GIRL』のWMエンターテイメントのクリエイティブチームがすっごく気になっている。
"アイドルにまつわるK-クリエイティブ"。
鈍いアンテナが反応する限りはゆるりと観測できたらいいなーと思っております。
*1:現在はYGを離れ、デザイン会社『MA+CH』を設立し代表を務める。クリエイティブディレクターとして活躍中。