原作は読んでいません。
仕掛け絵本のような、舞台美術のような一風変わったアナログな演出が素晴らしかった。
映画の中に演劇を閉じ込めたかのような世界観が新しい。
ある種のファンタジー。
映像作品としてはとってもおもしろい!
チャレンジが推せる。
ところどころ出現する本物の「舞台」というアイコンが効いています。
そう、本作の主人公はこの「舞台」の主演女優なのです、と言わんばかり。
まるで本当に舞台を観ているかのような不思議な気分になりました。
演出は撮影と美術を担うところが一丸となって取り組んだであろう完成度で、
映画が始まると同時にスピード感と絹のようななめらかさで一気に引き込まれます。
序盤はメリハリがありながら舐めるようなカメラワークが優雅で物語が踊っていました。
とくに縦横無尽にロシアじゅうを移動してしまう魔法のような展開力が凄い。
シリアスになる後半ではあまりこのような手法を使わないのですが
そうすることで一気にリアリティが出てきて、登場人物それぞれの苦しみをダイレクトに表現しています。
ですが、導入から演出に頼りすぎているので物語になかなかなかなか入り込めず。
単純に冒頭らへんは設定や話がよくわからない。
一気に色々な登場人物が出てきて色々なことが起こるのでいきなりごちゃつく。
主人公・アンナすら埋もれてしまって、(情報としては知っていたものの)誰が主人公なのかも曖昧。
よくわからないままスクリーンを眺め、しばらくしてなんとなくぎりぎりアウトラインを理解できました。
映画自体はストーリーそのものに主体性がない。
なので、後味としては制作側のエゴやドヤ顔が浮かんでくる残念な感じ。
"物語あってこその映像"の「映画」が"映像あってこその物語"に感じられてしまう。
それじゃあなにも伝わってきません。
主人公を取り巻くストーリーは展開が弱く、やや退屈。
アンナが自分勝手に振る舞ったなれのはて、というぐあいで
共感できなくもない部分もあるのですが、ちょっと苦しかったですねー。
こういう場合はいかに主役が主役としてまっとうできるかが重要なところもあるのですが、
アンナを演じたキーラ・ナイトレイの力量がどーのこーの以前に、脚本に難アリかなぁと。
対比としてアンナの物語とは別のところで育まれたカップル(リョーヴィン×キティ)が描かれていましたが、やや無理矢理で唐突。
もっと自然に対比させてほしかった。
けれど社交界のしがらみから離れ、農家で自然な家庭を築こうとするこのカップルには穏やかな気分にさせてもらいました。
キーラ・ナイトレイは自信に満ちあふれた美貌がまぶしく、惚れ惚れ。
結果的に自ら悲劇のヒロインへと堕ちていくわけですが、その気丈な雰囲気が衰えないのがちょっと無理があった気がします。
アンナの夫・カレーニンを演じたジュード・ロウ、メインキャストだったにも関わらず
最後までどのキャラクターがジュード・ロウなのかまったくわからない化けっぷりでした(笑)
予備知識ほぼゼロで観たので把握してなかったとはいえ、イケメン俳優があんな姿に(涙)、と後から衝撃。
役者としては新たなステージを開拓したのかもしれませんが、美しいひとは美しいままでいてほしい想いもあるので複雑です。
アンナの恋人・ヴロンスキーを演じたアーロン・テイラー=ジョンソンは独特なクセのあるイケメンっぷりに
アンナが虜になるのもわかる気がする(笑)
ラストシーンはこうきたか!、という感じ。最後までぬかりないです。
私は好き。
ひとつの舞台の終幕。
そして物語は続くのです、おそらく舞台の外で。