ミーハーでごめんね

ミーハーでごめんね

I AM LOWBROW, AND I'M SORRY.

斬、

最近つかれていた。
気がつくと些細なことや何てことのない日常でもメソメソしちゃうくらいにはつかれていた。
肉体的な疲労はもちろんあるけれど、でもそれはあんまりイヤな疲労ではなくて。


もう言っちゃうけど、ぶっちゃけダニエルのことがかなりきつい。
えねねんの入隊もあったりで、K-POPに関しては男子アイドルの曲をフツーに聴くことすらもちょっとしんどくて。
だから女の子のアイドルばっかり聴いてるんだけど。
文字どおり、ガールズ・パワーってやつ、あるんですね。効果を実感します。




ミーハーなので、このタイミングなら『グリーンブック』を観るところなんですけど、
いまは誰かの「気持ち」とか「思い」に触れたかった。


だから私は塚本晋也監督の『斬、』が観たかった。
『野火』という作品をつくった塚本晋也監督の作品に触れたかった。



いま、観ることができて本当によかった。
塚本晋也監督の「気持ち」や「思い」に、自分なりに触れることができた気がしたから。
鑑賞した劇場での公開初日に舞台挨拶あったんだね…も〜知らなかったよ〜…


時代劇と謳っていますけれども、
もはや時代劇なのかとか時代劇ってなんやねんという感じで、
そういうところの部分はとうに超越しているものだった。


私は歴史というものにはとんと疎い。
だからこの作品で描かれていたことが本当にあったことなのだろうかとか、
そういうことに関しては想いを巡らせることはできても、基本的にはわからない。
でも、それでも塚本監督は、あの時代のある農村ではこんなことがあったんじゃないか、
派手で華やかな時代劇に描かれることのない「そこ」にいるひとたちは、
懸命に生きようとし生活を守ろうとし、そして己の弱さと恐怖と絶望と共存しながら、
人が人を斬るよりその前からずっとずっと苦しんでいたんじゃないか、と寄り添う。
そんなひとたちを映して作品におさめることは、塚本監督の「気持ち」だし「思い」だし、
そしてなにより伝えたいことだったんだろう。
というか、伝えるための方法が映画なんだろう。
だから塚本晋也は映画をつくるんだろう。



塚本晋也監督は優しいひとだなって。



実際に去年の夏に塚本監督のお話を聞いたり、少しだけお話したりしたもので、
今作における表現のなかにあるアーティストの思考を、
意図せず覗き見てしまった的な小っ恥ずかしさはなきしもあらず(笑)
でも、それも含めていまの私には感じられてよかったことばかりです。うれしい。




正直なところ、映像に関しては不快だと感じる部分がほとんどだった。
でも、確信犯なのはわかってる。
このくらいやらないと塚本監督が伝えたいことが伝えられないからだろう。
『野火』だってそうだった。


全体的に息苦しい閉塞感と、それに加えて観ている側にあえて負担をかけるかのように重くのしかかる石川忠さんの音楽がとにかくしんどかった。


ここだけの話、編集はやや古めかしいなと感じた部分があった。(個人の感想です!)
まぁでも私は塚本作品は『野火』新規なので、
これは塚本監督の作風ってやつのひとつなんだろうかなと。




主演、浪人を演じた池松壮亮くんは前半は生気のない吐き捨てるようなセリフの発し方と、
まるで対になっているかのように素晴らしい表情だけでの演技を見せつけてくれて、
今回はこういう感じなのか〜と思いきやクライマックスに向かうにつれ、
その綺麗に覆われた部分を引きちぎっていくような痛みを感じさせる演技が圧巻だった。
佐江ちゃん、ホリプロも悪くないのでは。本命はアミューズですけど。
祝・宮澤佐江ちゃんが活動再開!新しい所属事務所のアナウンスはまだなのです。)


ヒロインは蒼井優。
童顔と自らの声質をフル活用した絵に描いたような田舎娘っぷりから、
駆け抜けるように絶望を露わにしていく女への変貌が凄まじかった。
これからも俺たちの『アンジュルム』をどうぞよろしくお願いいたします!


中村達也は中村達也だった。
一方で『HiGH&LOW』シリーズみたいなメジャー娯楽作品にも、
さも当たり前のような顔をして出演しているのが不思議なくらい。
塚本監督との付き合いは長いそうなので塚本作品の中村達也はもっといろいろ見てみたい。
そこにあるであろう中村達也の変化を見てみたい。




そして、監督・脚本・撮影・編集・製作、
さらにキャストクレジットの最後に名前を連ねた塚本晋也氏。
そう、本作が「塚本晋也の作品」ということはまぎれもない事実だし真実である。
物語の主役は池松池松壮亮だけど、映画そのものの主役は塚本晋也でしょう。


こんなふうに自分で映画をつくりたいひとが、
自分で映画をつくることができるというのは希望でしかない。




塚本晋也監督にこれからも作品をつくり続けて欲しいと願うと同時に、
たくさんいるであろう「表現」したいひとたちが活躍できる環境を願って、
と、パンフレットを購入させていただきました。


もちろんそういう心情的なところを抜きにしても、
スタイリッシュでコンパクトながら重量を感じるクオリティの高いパンフレットは、
純粋にいい買い物をしたなぁと思えるものです。
装丁に使用されていたマーメイド(紙の種類)は、
質感はあたたかく、けれど感触はひんやりとしていて、とても美しいです。


ぜんぶぜんぶ、本当にありがとうございました。