すごく幸福な時間を過ごすことができた。
開始数分で、ああ、この映画、ずっと観ていたい、この世界にずっといたい、って思った。
描かれていた世界には、
人間くさいあたたかさのようなものが充満していた。
アーティスティックに冴えた映像と音楽の競演が美しかった。
このテのトーンの作品のなかで、これだけ登場人物をしっかりと描くのは、本当にすごい。
全体的にスタイリッシュだけど、雰囲気だけでだらだらするようなことは一切ない。
ところどころが鋭利で飽きない。
ストーリーは派手ではないながらも、つくりが絶妙ですごくよかった。
そのへんにデザイン畑のマイク・ミルズを感じた。
登場人物ひとりひとりの人生がしっかりと表れていて、
そのどれもが自分があたかも知っているもののような気になるし、
本当に知っている部分もあったのだと思う。
だから最初から最後まで涙が止まらなかった。
登場人物、というか画の生命力がハンパなかった。
みんなパワフルでキラキラしていた。それを感じられるだけでも元気が出る。
そしてそんなキャラクターたちを演じた役者陣がすごかった。
それぞれがめちゃくちゃ中途半端で面倒くさいキャラクター像をしっかり体現していた。
みんなイイ顔すぎた。
アネット・ベニング - ドロシー・フィールズ
グレタ・ガーウィグ - アビゲイル・"アビー"・ポーター
エル・ファニング - ジュリー・ハムリン
ルーカス・ジェイド・ズマン - ジェイミー・フィールズ
ビリー・クラダップ - ウィリアム
なかでも55歳のシングルマザーであるドロシアを演じたアネット・ベニングの顔が最高。
知らない役者さんばっかりだったけれど、本当に全員ビジュアルが超絶妙。
揃うとすごい化学反応を起こす。
エル・ファニングはお察しのとおり、あのダコタ・ファニングの妹。めちゃかわいい。
そしてとにかくジェイミーがめちゃめちゃかわいい。
ストーリーはちゃんと"終わる"。
「その後」の未来を本人に語らせて、しっかり終わらせるっていうのは斬新だと思った。
ああ、終わらないでほしいと思いながら、
物語の終わりを突きつけられるのだけれど、不思議な清々しさが残る。
「死」ですらもそれは人生の一部なんだよなぁ。
人生は美しい。
パンフレットを購入したのだけれど、
そこに書かれていた文章らはあまりにも自分の観たものと違ったように感じられて戸惑った。
それだけ作品が心のなかに入り込んできた証拠なのだけれど。
焦点の当て方があまりにも自分と異なっていて、
まったく別の作品についての文章を読んでいるようなヘンな感覚。
さて、監督・脚本はマイク・ミルズ。
私の知る「マイク・ミルズ」は、グラフィックデザインだし『X-girl』だし『relax』だった。
映画をつくっているだなんてまったく知らなかった。
クリエイターとして「マイク・ミルズ」という人物を覚えたのは、
マガジンハウスから刊行されていた雑誌『relax』だった。
マイク・ミルズは『relax』にたびたび登場していたように思う。
そして、私は主に"グラフィックデザイナーのマイク・ミルズ"を知っていくこととなる。
本作を観るにあたって、かな~~~りひさしぶりに目にした「マイク・ミルズ」という名前。
正直なところそのひとが何者だったのかぜんぜん思い出せなかった。
映画を見終えて、軽く検索してようやく思い出した。大好きだったじゃん。
パンフレットをめくる。
鮮やかに配置されたスチールカットのそれらは、"めっちゃマイク・ミルズ"だった。
あー、あのシーンも、このシーンも、"めっちゃマイク・ミルズ"だったんだ。
キャラクターどころか演じた役者の造形すらも、
いま思えば彼のデザインしたもののように感じるくらいだ。
パンフレットには当時の『relax』編集長の岡本仁が寄稿してるし、
デザインも当時の『relax』のアートディレクターである小野英作が担当している。
表紙のシンボリックなタイトルはマイク・ミルズによるもの。
そして小さく添えられた飛行機。
手に取れば、映画の空気を思い出すことができる。
そんなパンフレットには私の知る"グラフィックデザイナーのマイク・ミルズ"の姿がある。
そしてきっと見るたびに本作とともに、痛烈に「いつ」だかのことを思い出すのだろう。