ミーハーでごめんね

ミーハーでごめんね

I AM LOWBROW, AND I'M SORRY.

リリーのすべて

観終えた直後は、なにも考えられないほどにはぼーーーっとしてしまいました。
リリー/アイナー(エディ・レッドメイン)にもゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)にも、
どちらにも気持ちを寄せてしまって。


実話だそうです。
原作小説もあるとか。そちらは読んでいません。


単純に興味深く、作品としておもしろかったのだけれど、
それだけでは終わらせてはいけないような映画でした。
かといって押しつけがましく「考えろ!」などと強要する作品というわけでもなく。
そういった意味ではとても心地の良い後味。


映像作品として、おそらく当時、前代未聞であった出来事を極めて静かに扱った点が印象的。
淡々と、しんとした見守るような風に捉えていたことで映画としてしっかりと解釈なされていました。
時折現れるダイナミックなカットの構図に引き込まれます。




苦み・辛みを抱えたストーリーがぽんぽんとテンポよく進むスピード感により、
まるでファンタジーのような世界観を助長していたように感じました。


ただ、それらはちょっとテンポがよすぎるきらいはあった。
そんなに人間の心情はうまくコントロールできるもんじゃないんじゃないかなぁと。
けれど、そのへんを湿っぽくしなかったからこそ、ひとつの映画にパワーが宿ったような気もするので、結果的にはよかったのかなぁ。(どっちだよ)


キャラクターのバックグラウンドが良くも悪くもあまり描かれていない。
だからこそそのテンポのよさが、個人的にはちょっと違和感あったのかもしれないです。
それが、人間の持つ生々しさに通じない。だからこそ美しい物語に仕上がっている。




個人的には、たくさん傷ついたであろうに、失われることのなかったゲルダの無償の愛について、もっと知りたかった。
「男性」として愛した夫が、「女性」になっていくという経験は想像を絶します。


ゲルダが夫である「アイナー」を失い、「リリー」をただ人間として愛するに至った経緯は、ちょっと不可解でもあったのだけれど、
答えはラストシーンに集約されているように感じました。
そこでゲルダは複雑な苦しみから解放されたように見えました。
空を舞うスカーフはシンボリックでとっても良かったです。
まぁちょっとあっけなかったな、という気がしなくもないんですが。


同時に、内容に比べて軽やかな展開の反動でどっと疲れが出て、虚無感と脱力感も。(私が)
それでも、やっと在るべき自分に成れたリリーの幸せの様子が勝るのか、悲しいという気分にはなりませんでした。




エディ・レッドメイン、綺麗でしたよ。
初めて女装したときから、私には女性に見えました。
女「性」への芽生え、繊細に演じていたと思う。
アイナーのシックなファッションが凄く好みでした!


アリシア・ヴィキャンデルも、すごく難しい役どころだったと思うけれど、
見事に演じ切っていました。逞しく、格好良かった。




美しくて、儚い。


一方で、映画でのそれらを素直に受け入れることができない自分にちょっとがっかり。
もっとしっかり浸れる懐の深さを得ようぜよ。自分の浅さが悔しい。
自分の体験したことのない痛みがどこか他人事・絵空事のように思えるんだろうなぁ。


ドラマ性の強い物語を"美しく昇華しないといけない"という謎のプレッシャーは、
自分がいかに「ジェンダー」という題材に身構えているかの鏡だよなぁと実感。
割と私自身、そういった問題についてはフラットであると思い込んでいたので、
まだまだ理解しきれていない部分があるんだと思い知らされたのでした。