ミーハーでごめんね

ミーハーでごめんね

I AM LOWBROW, AND I'M SORRY.

リンカーン

映画本編の前に、監督のスピルバーグが出てきちゃうのが、まず萎え。


閉鎖的な空間のなかでの"会話劇"が演劇のようでもありましたが、
それが字幕版の映画でとなるとかなりつらいものがありました。
矢継ぎ早に繰り出されるさまざまなことばと、画的なところも含め緩急のない展開に前半はげんなり。
しかもBGMが無音だったりするので、もう「寝ろ!」と言われてるようなもんですよ(笑)
おまけにアメリカの歴史や政治に明るくないのでまったくついていけず。
ある程度の予備知識がないといキツイです。


憲法改正に至る経緯はドラマチックになぞっていたものの、それ自体は地味。
演出や編集にもう少し工夫が欲しかったです。
主人公・リンカーンは一貫して「平等」を唱えていましたが、今作のような雰囲気だと私にはあまりその情熱が伝わってこず。
映画の見せ場であろう議会でのシーンもあまり入り込めませんでした。
かなり外側から他人事のように眺めている自分が虚しかったです。


南北戦争がどーの、黒人奴隷制がどーの、と言っていますが、それら自体はほとんど描かず、
安全圏にいる主な登場人物たちの周りばかりが映し出されていて
「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きているんだ!」と、
思わず『踊る』シリーズの名台詞を思い浮かべながら観てしまったのですが、
よくよく考えたら描かれていたところだって立派な、しかも最重要なひとつの"現場"なんですよね。
そこでアレやコレがなされなければ憲法改正には至らなかったわけで。
イコール、それを描くことがこの映画の主題であることを完全に忘れるくらいには退屈してしまったんです。残念。
どうしてもメインの部分の裏方感が強く感じられて、観てる最中はもやもやしてしまいました。


狙ったことでしょうが、"主人公としてのリンカーン"の存在感が弱い。
ただでさえフタを開けたら苦手な作風だったので主役がもう少し立ってないとしんどかったです。
逆に、どのシーンにもフッと現れる大統領像はおもしろいと思いました。
彼が特別、大統領大統領していたのは「私は大統領だ!」と声を荒げたところくらいなのではないでしょうか。
作品との相性が(私と)良ければもっと楽しめた気がします。


リンカーンの夫妻関係・家族関係のことも、もうひとつのテーマとして掲げられていたのですが結果的には中途半端だったかなと。
憲法改正後、リンカーンの最期までがちょっと長すぎた感がありました。
彼も"ただのひとりの男"であったことが強調されたのかもしれませんが、個人的には不要に感じました。
彼はそれ以前にじゅうぶん"ただのひとりの男"として、それ以上でもそれ以下でもなく描かれていたように思えたからです。
リンカーンを演じたダニエル・デイ=ルイスは、そんな制作側の望むリンカーン像を完璧に演じていました。


トミー・リー・ジョーンズが演じたスティーブンスに予想外の素敵な結末あり。
温かい気持ちになれた場面です。
法案可決のそのとき、鐘の音・大砲の音と白いレースのカーテンに包まれ、
リンカーンが幼い息子とともにホワイトハウスの一室の窓から外を覗く光景は美しかった。
そして彼が凶弾に倒れた際にそれを知ったその息子のシチュエーションなども印象的でした。


ラストのリンカーンのスピーチのシーン・エンドロールでは胸が熱くなりました。
という感じなので、なんだかんだ、映画として、何も響いていないわけではなさそうなのです。