ミーハーでごめんね

ミーハーでごめんね

I AM LOWBROW, AND I'M SORRY.

万引き家族

すごく好きな映画だった。


泣けも笑えもしなかったけれど、是枝裕和監督がしっかり「幸せ」のビジョンを持っていて、
でもそれを観客に押し付けない、ジャッジさせる。


表現としてはちょっとあざとすぎると思った部分もあったけれど、
作品が真っ正面からぶつかってきてくれる感じが私はすごく好きです。




私が最後に観た是枝作品は『そして父になる』。これがまずかった。
私的にこの作品も是枝監督が持つ「幸せ」のビジョンを映したものだと思う。
けれど、作品のなかで正解をきっちり出してきてそれを押し付けてきたような気がした。
他の監督だったら、そういうのもぜんぜんアリだと思えるのだろうけど、
『奇跡』という作品をつくったひとの作品がこれかよ感がぬぐえず、がっかりしてしまった。
その後の何作かは、そのときのがっかりに加えて、キャスト陣のアイドル的な明るさと強さがキツくてスルーしてしまった。


そして今作『万引き家族』。
映画館にチラシが置かれたときからその素晴らしいスチールとそこにいるキャストの面々と、
そしてなにより明らかに煽っているかのような主張の強いタイトルに、心踊った。



そんでもって気がついたらカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞していた。
今回この作品を恵まれた環境で観ることができたのは「それ」が効いているのだろうけれど、
「それ」と引き換えにメディアなどでの取り上げられ方をはじめ、なんだかすごく煩わしい声を聞くこととなってしまったのも確かだ。
こういうのってノイズマーケティングっていうの?(違う)


そういったこともあり、観るタイミングは結構慎重になった。
ちゃんと作品に向き合いたかったし、作品を受け止めたかった。
それを心がけたおかげで個人的にはしっかりと映画を観ることができたと思う。自画自賛。




"ジャッジさせる"というのは考えさせたり感じさせたりすることも含むと思う。
正直、主人公たち「家族」それぞれの心象風景は、「わからない」とか「理解できない」とかいうところも多々あった。
でも、当たり前だ。私は「彼ら」じゃないから。
映される行動やことばだけではわからないところをキャラクターたちの内側にしっかりと抱え込ませていたことで、
観ている私自身がどこに立っていればいいのかと翻弄させられた。うまい。


あざといと感じたのは、その映されていた部分があまりにわかりやすかったからだ。
それらはまったくぼんやりとしてはいなくて、"人間が「生きる」"ということが是枝監督の文脈でかなりしっかりと描かれていたと思う。





キャストはもう文句なし。贅沢。
「うまい」と言われているひとたちがえげつなくそのスキルを披露しているのでそれだけでも観る価値がある。
それに必死についていく若手の松岡茉優がすごくキラキラしていた。
彼女だってもちろん「うまい」。『勝手にふるえてろ』もすごかったしな。


子役ふたりも「うまい」。
ただ「お兄ちゃん」(城桧吏)の顔がイケメンすぎるのはちと不自然だったけど(笑)
「妹」(佐々木みゆ)は、これまたあまりにも振る舞いが自然すぎて、
是枝監督はいつもどっからこういう子供を連れてくるの…とか思ったりした(笑)
でも、彼女は"是枝作品に登場する「子供」"のなかではとてもしっかりと演技をしていた。
立派な女優さんです。




好き嫌いのある作品ではあると思う。
でも、作品以外のところで批判をしたりするのは勿体なさすぎる。


観たひとの気持ちには添えないかもしれない。
でも観たひとの気持ちになにかが残るかもしれない。


感じたり、考えたり、そうやって自分自身の持つ「正解」にたどり着くことができるかもしれないし、迷路に迷うことになるかもしれない。
私はというと、迷路に迷っているクチだけれど、それでも好きな作品です。
できるだけたくさんのひとに観て欲しいと願います。


観てよかった。
この作品がカンヌなどで評価されて本当に嬉しい。