ミーハーでごめんね

ミーハーでごめんね

I AM LOWBROW, AND I'M SORRY.

この世界の片隅に

原作未読、アニメーション映画版を観ました。


一見萌え系のチラシビジュアルが苦手で、評判に背中を押されるかたちで鑑賞に至りました。
けれど、観る前と観た後ではチラシの見え方がまったく変わる鮮烈な作品でした。


このクオリティをして、公開当初、全国たった63館での上映だったという事実にも驚き。
それが主にSNSや口コミで評判がひろがり、とうとう私の近場なんぞのシネコンの一番おおきなスクリーンで、堂々公開される作品にまでになったのでした。
映画化がクラウドファンディングによる資金あつめからはじまった、という逸話もその話題性を加速させます。




「戦争」、「アニメ」、というだけで、私も含めて敬遠してしまう層も多いと思う。
だけど、よくあるそういった類のものではなかった。


描かれていたのは、ある時代をただ生きた、"主人公・すずの生活や日常"だった。


劇中ではリアルにこの世の中を生きる我々と同じようにスピードをまとった日々がどんどん過ぎていく。
あれよあれよという感じの、そりゃあもうすごい展開の速さで。
そのあいだにいろいろ起こるのだけれど、それは描かれていた当時のひとにとっては、きっと特別なことではなくて。
けれど登場人物たちにとっては激動のはずのそれをあえて淡々と静かに描くことで、
強く訴えかけてくるパワーがあった。


ふだんはのんびりぽけぽけしている主人公すずさんを能年玲奈こと「のん」が好演。
序盤は"のんがすぎる"と思ってしまったけれど、その声は物語が進むにつれぐんぐん「すずさん」になっていって、そんなすずさんに引き込まれた。




終始きめ細かいながらも暖かなタッチで描かれていたアニメーション。
そんななかで叫びだすかのように主人公の内側がさらけ出される演出がとてもよかった。
ときおり登場するファンタジックな表現や、
すずさんが絵を描くのが得意とのことで、それを効果的につかった表現もアクセントになっていました。
また、そんなほのぼのタッチと相反するかのような容赦のない爆撃の様子なども目が醒めるようなソリッドさで見事だった。


いつの間にか姿を変えたすずさんの右腕も衝撃的だった。ショックだった。
表面的には画に馴染んでいくそれは、ときにすずさんの心の痛みをえぐり出す象徴となっており、たまらなくつらかった。
きっと私の人生や生活、あの人の人生もかのひとの生活もそういうものなのだ。はたから見たらわからないだけで。
本作ではそんなぼんやりしがちなものをまっすぐ具現化することによって、
私自身が何気なく過ぎていく自分の人生や生活に目を向けることとなった。
そのへんも、ただの戦争もの、ただのアニメではない凄さ。




戦時中を舞台にしながらつねにこちらが穏やかな気持ちで観ることができたというのも凄い。
なんつったってわかりやすいゴリ推しのメッセージ性やお涙ちょうだいは皆無。
牧歌的な笑顔もふんだんにあしらわれ、それが余計にこちらの生活に歩み寄ってくる。
作品のなかの笑顔は他人事ではなくて、我々の日常にもある笑顔と通じるものがあってより一層こちらも素直に笑顔になれた。
ラブストーリーとしても素直にどきどきしたなぁ。




優しくて美しい、けれど押し付けがましくないアニメーションには、冒頭から涙腺を刺激されまくった。
日本人のアニメーションにおける仕事を誇りに思いました。


作品の感想としては「おもしろかった」といったら誤解を受けそうだけど、
でも、ちゃんと作品として、エンターテイメントとして、「おもしろかった」。
コトリンゴさんの楽曲もふくめ、音楽も素晴らしかった。
音響の臨場感も、この映画を映画館で観てほしいと思う理由のひとつ。


"邦画大豊作"と言われている今年。
日本語を自分の頭で理解できること、日本人がつくった日本の、日本人の主人公の物語を、
こうしてしっかりと感じ取れることが素直に嬉しいと思います。