ミーハーでごめんね

ミーハーでごめんね

I AM LOWBROW, AND I'M SORRY.

怒り

例によって吉田修一による原作小説は未読です。
この布陣!、と揃えられたキャストの面々の豪華さが話題にならないわけがないし、
それがゆえに期待もしてしまうってゆーものです。
その期待には、個人的にはバッチリ応えてくれたと思います。大満足です。




すごい熱量がふりかかってきて、
こちらの心が共鳴してその場で叫びだしたいほど揺さぶられました。


脚本と演出が抜群だったと思います。
3つの漠然としたストーリーが、とくに接点もなく無防備すぎるほどまっすぐ進んでいきます。
3つがそれぞれが濃いにもかかわらず、これだけショッキングな内容を扱っていながら、
しっかりと地に足のついたストーリーテラーに案内されているような感じで、
すべてを私たちの日常の延長線上にあるかのような物語に仕上げていた点は、本当に李相日監督、お見事といった感じ。
キャストの演技も含め、"華やかさ"を徹底的に排除してあえて地味に地味に抑えていたのがよかったです。
3つのストーリーの繋ぎ方もすごくセンスがよくて、飽きさせません。


各ストーリーとも映されていた風景や空気感がとても印象的。
なかでも沖縄の絶景は作品の苦々しさを取り払ってくれるような爽やかさでした。


また、ミステリーとしても完成度が高く、
エンターテイメントとしてもとってもおもしろかった。
坂本龍一による音楽もよかったです。


ただ、ちょっと意図してないであろう混乱がこちら側にあったのは惜しい。(私だけかも)
それすらもねじ伏せるような何かが欲しかったです。
事件の犯人の心象風景が狙ってのことなのか曖昧だったのも気になる。




邦画×豪華キャスト×有名監督×有名原作、という点で、
先日観た『オーバー・フェンス』と比べるところが多々。
内容もそう遠からず、という気が。どちらも「人間」を描いていたわけだから。
でもこれだけ違った印象を受けるのは、つくり手の想像力の圧倒的な差と、
キャラクターといかに真っ向から付き合ったか、というところで明暗を分けた気がします。
まぁ、規模やストーリーは全然違うので、比べるのはお門違いなのだろうけど。




この布陣!、のキャストの演技も素晴らしかったです。
それにしてもピエール瀧はいったい何回刑事役やるのよ(笑)


キャストも豪華豪華と言っているけど正直、苦手な俳優さんばかりでした。
でもみんなすごくよかった。
とくに、痛々しく、強さをまるでみせない宮崎あおい(これまではどんな役をやっても持ち前の芯の強さが滲み出てしまうイメージが)、
ナルな雰囲気を感じさせない妻夫木聡(絶賛されている李作品の『悪人』での演技は"俺ってかわいそうでしょオーラ"が凄かったように感じた)の演技力の向上は素晴らしいものだと思う。
渡辺謙も、ハリウッドハリウッドしてるのかと思えばどっこい、真逆の泥臭い演技で魅せてくれました。
広瀬すずちゃんはチヤホヤされているイメージばかりだったのですが、しっかりと実力派女優さんですね。


森山未來はうまいんだけど、ちょっと森山未來すぎた(笑)
彼の表現力がオーバーヒートしている状態だと感じたのであまり"演技している"という感じではなかったように感じました。


三浦貴大の隠しきれない育ちの良さが大好きなので、冒頭からの登場には高まりました。
「有名」ではありませんが、辰哉役の佐久本宝くんの演技も素晴らしかったです。




様々な感情表現が繰り広げられていましたが、
個人的には「後悔」の部分が突き刺さりました。


信じきれなかった・信じられなかった。
疑ってしまった・疑えなかった。


作中では劇画調に描かれているけれど、日常にあふれているこれらを思っては、
また、自分もふくめ、ひとのそれらを想いました。
それらを経て、得たり失ったりしたキャラクターたちが迎えるラストの対比も鮮やかでよかったです。


だからこそ、『怒り』というタイトルがシンボリックすぎて(取って付けたような感じ)、
観たあとの後味とあまり合致しない気がしてちょっと違和感がありました。
原作小説を読めばその違和感は解消されるのかなぁ?