ミーハーでごめんね

ミーハーでごめんね

I AM LOWBROW, AND I'M SORRY.

舟を編む

原作は読んでいません。


"松田龍平×宮崎あおい"が、いかにも狙ってる感じがぷんぷんで「絶対に観てやるものか!」と思っていたのですが、
そうやって意識しすぎた結果、逆に超気になる存在になってしまい、鑑賞に至った次第です。


耳に響く日本語が心地いい……、もしかして邦画は今年初!?、かと思ったのですが、
つい最近『変態仮面』を観たばかりでした…。




良作!おもしろかった!


前半は「良い映画つくってるんですよ〜」アピールが凄くて「ェ…」となってしまい、
このあと楽しめるのだろうかと不安になったのですが、気付いたら夢中になって観ていました。
「辞書づくりってこうなんだ〜!」っていうところだけでもじゅうぶんに楽しめます。


つくっていたのが「辞書」なのが良い。
おそらく、今回の制作スタッフで、何かしらものづくりを追う物語を映画化したとしてもそれなりの出来になったかと思いますが、
"ことば"という日々変化していく私たち人間の一番身近なコミュニケーションツールの指標となる「辞書」がテーマになっているので
物語に厚みや温かみが帯びたのだと思います。
15年という月日を環境の変化を感じさせつつ、時間の経過を描きながら映し出した点は本当に凄いです。
そんな本作の指揮をとった、石井裕也監督は、なんと若干30歳(白目)


辞書『大渡海』を完成させたこと自体に、とくにこれといってこちらの感情を高ぶらせてくれるようなことがなかったのが残念でした。
映画のラストからも「これからも人生の航海は続くんだ」というようなことは感じられたのですが、作品としてはちょっと弱いかなと。
けれど作品のなかで、ところどころかなりわかりやすい区切りがテンポよくあるので、決して退屈しません。
ストーリーは地味ながら、全体的にみずみずしく、躍動感があります。
巧妙な演出の賜物。ディティールまでよく凝っています。


松田龍平演じる主人公・馬締(まじめ)と宮崎あおい演じる香具矢(かぐや)が結ばれてから、
このふたりの生活感・夫婦感がなさすぎで妙な感じでした。
良く言えば、ファンタジック。
それを"演出"として捉えられないのは私自身がひねくれているからだというのもじゅうじゅう承知なのですが、
それにしてもふたりの様子は気味が悪かった。


登場人物すべてが、こんなに人間味にあふれ、魅力的に描かれている映画はなかなかないと思います。
設定ありきで流れが読めてしまうところがなきにしもあらずなのですが、丁寧につくられているので嫌な感じがしません。
長年に渡って"辞書づくり"を静かに描いた点、そのなかでの紆余曲折を自然に入れ込んだ点は、うまいなぁ、と言わざるをえません。


序盤は登場人物のくせ者っぷりがわざとらしく感じましたが、
観ていくうちに、ものづくりの現場にはよくいるひとたちだなぁと、かつて自分自身がそういう環境に身を置いていたことを思い出しました。
そんなこんなで、辞書づくりについての主人公の胸の高鳴りなど、最初からまるまる共感。
「先生」と呼ばれるひとの辞書づくりにおけることばに文字通り魅了される主人公の様子に、
昔の自分を重ねて観てしまいました。
「先生」と呼ばれる存在、「ものづくり」という現場、「変わり者」と称されるひとたち、
すべてが懐かしく、鑑賞後はヒリヒリとしました。
そして、そのものづくりの段階における喜びが何事にも代え難いことを私も知っています。


後半、新しく辞書編集部に配属された女の子を、すっかり我が後輩のような気分で見守ってしまいました。
環境の変化に戸惑う彼女に自分を重ねつつ、彼女の成長を嬉しく思うのです。


役者陣はみなさん良い味で、とっても素敵な演技でした。
松田龍平は各作品でそれほどオーバーにスタイルを変えているわけではないのに全然違う人物を演じることのできる良い俳優さんなんですね。
加藤剛、小林薫、オダギリジョー、伊佐山ひろ子、黒木華…、辞書づくりに携わる面々のキャスティング、本当に良かったです。
馬締の暮らす下宿「早雲荘」の大家・タケさんを演じた渡辺美佐子も良いスパイスに。
辞書づくり終盤のボランティアスタッフ役のキャストが悪目立ちしていたのが勿体なかった。
『北のカナリアたち』に続き、宮崎あおいちゃんの劣化が気になりました。
あと、池脇千鶴といい、"演技派"と呼ばれるこの年代の女優は圧倒的に童顔が多いことを印象づけられた気も。
"ナチュラル"、"美人すぎない"ことが鍵なのだと思いますが、
個人的にはこのふたりの役は、もっと見た目が大人っぽい女優さんが良かったなぁと。


エンドロールで確認したのですが、肝心の辞書『大渡海』そのもののデザインは井上嗣也さん、
麻生久美子がモデルとなった辞書の宣伝写真は新津保建秀さん撮影でした。




映画を観終わった直後、目の前にあるアレコレが、今までとは違ったかたちで視界に飛び込んできます。
どれもこれもが新鮮で、思わず一歩踏み込みたくなる衝動に駆られるという不思議な現象。
その反動で、普段は使わない脳みその部分がフル稼働するせいか、妙な疲れも併発。
それはそれでおもしろい体験でもありました。
初心に帰りたいとき、視点を改めたいときにこの映画のことを思い出したいです。